のどかな入間川を菜の花色の電車が通ります。岸辺には野の花のような菜の花がぽつぽつ咲いています。この電車は、夜見ると明りがきれいで、銀河鉄道のように空に登って行きそうです。風にのって電車が鉄橋を渡る「カタン・コトン」がけっこう遠くまで響いてきます。遠くで聞く、その音は水車の音のように、耳にも胸にも、心地よいです。
「別冊 詩の発見 第12号」(大阪芸術大学文学科現代詩研究室 山田兼士・編集)のご紹介です。たくさんの詩人の方のいっぱい詩が載っていてゴージャス、なかなか読み応えあり。学生さんたちの作品や詩集レヴューも新鮮。ご購入をお勧めします♪¥500(*私も「わたしはあなたと死んでゆけそうにない」を書かせてもらいました。) ↓
☆別冊・詩の発見
☆同じ澪標発行の「ドビュッシー・ソング・ブック: 対訳歌曲詩集 」(山田兼士訳)もとてもいいです。山田さんは詩人で言葉と人柄が一致する希有なひと。言葉の柔らかさ、しなやかさに、すこやかさに、現代詩の、憑き物が取れるようです(なーんて♪)。こちらもおすすめです。
私はあなたと死んでゆけそうにない
宮尾節子
「私はあなたと
死んでゆけそうにない」
影を守るのが私の生きる仕事だから
一瞬の光で石畳に焼き付けられた
ヒロシマの人影を──
わたしは何度も何度も反芻し身の内に取り込もうとしました
川沿いの明るい
夏の桜並木の小道には黒い木の影が並んで落ちていました
光が強ければ強いほど落とす影もまた深く濃くなります
光が影を育てていることを
ひと目で了解したのがヒロシマの影でした
ヒロシマのあの影が薄くなってきている──
という噂が耳に入りました
わたしは、急いで言葉を探しました
あの人影の言葉を、消える前に見つけなければ
ならない
わたしもまたこうして詩を書き思いを言葉にして
ほら、思いが動くたびに追いかけて動く言葉の──
影だけをここに残していく者
──あの影の仲間だ
「私はあなたと死んでゆけそうにない」
それは光と決別する、影の声でした
ヒロシマの石に残った人影ははっきりと
抗議したのです
「光よ、
私はあなたと死んでゆけ──
ない。」
そうして光が焼き尽くした街に
影は、生き残ったのでした
人の形で──
詩人よ、
あれが言葉だ。
*
後年。科学技術もすすみ、分析された人影から
アミノ酸等が検出された結果、影ではなく、
あれは人だと──判ったそうです。
詩人の言葉から、アミノ酸が発見された
話は聞かない。
*タイトルはエミリ・ディキンスンの
詩の中の言葉より引用。
*詩の発見12号・掲載詩です。(*紙面で読んでもらえるとうれしいです♪)
*義母が広島なので色々とヒロシマのことを見たり聞いたりします。
原爆記念館でいちばん影が心に残りました。人が遺した詩のように、
見えてしまって。。